2009年11月20日金曜日

【書評】デジタルサイネージ革命【村山】

デジタルサイネージとは、屋外・店舗などの屋内・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ネットワークに接続したディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するシステムのこと、つまりは、至る所に設置された映像ディスプレイのことである。例えば、渋谷スクランブル交差点に立つと目に入る大型ディスプレイやJR東日本、通勤電車のドアの上部に設置された、いわゆる「トレインチャンネル」などがそれである。渋谷の大型ディスプレイがデジタルサイネージであるならば、デジタルサイネージは新しい技術ではないと思うかもしれない。確かにその通りで、新しい技術ではなく、これまではAOO(アウト・オブ・ホーム)、電子ポスター、電子看板などの様々な呼び名があったが、2008年に呼称がデジタルサイネージに定着(2008年=デジタルサイネージ元年)したため、テレビとネットをつなぐ第三の新しいメディアとして注目を浴びるようになった。
デジタルサイネージのメリットは四つある。①従来の写真や文字を中心としたポスターなどの広告と異なり、動画や音楽を利用できるので、提供できる情報量が圧倒的に増える。②時間と場所を特定できるので、ターゲットを絞った特定の層にピンポイントかつリアルタイムで情報を提供できる。③ネットワーク管理によって、ディスプレイ端末ごとに供給するコンテンツを制御できる。④紙のポスターや看板を張り替える必要がないので、長期的に見て広告コストを削減できる。例えば、駅ナカに飲料メーカーがデジタルサイネージを使った広告を流す時、朝は通勤者向けに缶コーヒー、午後は主婦向けに健康飲料、晩は帰宅者にビールの広告を流すというように。従来のポスターなどの紙媒体では時間によって提供するコンテンツを差し替えることは不可能であったが、デジタルサイネージはネットワークで提供するコンテンツの管理が行われているので、時間と場所を考慮して、その場所を利用する人々に向けた情報をリアルタイムで提供できるのである(行動ターゲティング広告)。ただ、デジタルサイネージは広告としてだけではなく、その他の使い方も出来る。例えば、学校の休校情報を知らせるために学校に設置したり、病院の休診日を事前に知らせるために病院に設置したり、というように。そのような意味で、デジタルサイネージは単なる広告ではなく、広告以外の用途にも使用できる様々な可能性を持ったメディアと認識する必要があるのではないかと感じた。また、デジタルサイネージには、映像と連動して「香り」を発生させて嗅覚に訴える「香りサイネージ」の様に、人間の五感に訴えるサイネージもある。さらには、プロジェクターで床に投影された映像を足で踏むと、コンテンツが変わるという様な、自分の動きによって、映像が様々に変化するインタラクティブ(双方向的)なシステムも導入されてきている。
このように、一言にデジタルサイネージといっても非常に多様性に富んだ形式のサイネージが増えてきているが、技術の開発から実用まで、産業形成に時間がかかるのは良くあることである。大事なのは、産業化されてから後、その技術が普及していくかということであり、その普及を支えるのは配信されるコンテンツである。どんなに面白い技術でも、提供するコンテンツがつまらなければ誰も興味を持たないだろう。ハードだけでなく、ソフトも、同様に、ソフトだけでなく、ハードも、両方の発展なくしてデジタルサイネージの普及はないだろう。とは言うものの、今まさしく進化をし続けている新しい技術・デジタルサイネージの今後の進展が非常に楽しみである。

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