2009年11月20日金曜日

【書評】福翁自伝【村山】

ある講演会に参加した時に、話し手が福翁自伝の中に出てくる「門閥制度は親の敵でござる」という福沢諭吉の言葉と、彼の学問に対する情熱には鬼気迫るものがあったという話を聞いたことがきっかけで読んでみた。大学の入学式に貰った本がこんな形で役に立つとは思いもしなかった。
「門閥制度は親の敵でござる」。この言葉は封建制度の時代の下に、有能であるにも関らず藩という存在に縛られて結局、立身出世できなかった自分の父親の無念を嘆いた言葉である。父親の無念を晴らすために学問に没頭し、封建制度の改革を目指すのかと思いきや、全くの逆である。学問への情熱など欠片もなかった。彼は人一倍、勉強することが嫌いで、初めて本を読んだのは14、15歳の頃であった。学問への情熱の話を聞いていたので、非常に意外だったが、同時にそれにも関らず、誰もが彼の存在を知るに至ったということは、その後の彼の学問への努力の証明でもあるんだなとも感じた。
また、彼が暗殺を心配していたという事実も面白かった。鎖国の日本にありながら、アメリカに渡り、開国文明論を唱えていれば暗殺の対象となっても当然なのかもしれないが、これほど偉大な人物が、一般の人々と同じ様に死を恐れていたという事実にどことなく親近感を覚えた。彼はとても運がいい。二回も暗殺計画を立てられていたにも関らず、暗殺者側のごたごたや、偶然とった諭吉の行動によって、二回とも命拾いしている。運も実力の内とは言うが、彼ほどこの言葉が似合う人物はいないのではないだろうか。自分は彼の様な強運の持ち主ではないので、少しばかりその運を分けて欲しい、そう思った。
最後に、福沢諭吉が生みだした「独立自尊」という精神について。独立自尊とは、何事も自分の力で行い、自らの人格や尊厳を保つことである。自分一人で出来ないことは世の中に沢山あるだろう。その時に周囲の人間の力を借りて、何かを成し遂げることは必要なことであると、個人的には思う。しかし、いつも他力に頼るのではなく、独力でも課題をこなせるような精神の強さは、周囲から信頼を得るために絶対的に必要な要素であるとも強く感じた。

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