2009年10月13日火曜日

【ホンヨミ!】イスラームとは何か【田島】

(先週の分の書評です。遅れてすみません)
イスラームとは何か―その宗教・社会・文化 (講談社現代新書) (新書) 小杉 泰 (著)

われわれ日本人にとってイスラーム(教)とはなかなか馴染みの薄いものであると言える。しかしその信徒数は11億人とも言われ、世界で2番目に信者が多い宗教である。従って、世界でこれほどの勢力をもつ教えについて理解を試みることは、国際社会で暮らすなかで決して無意味ではないと思われる。世界を揺るがせた9.11テロを引き起こした「アルカイーダ」はイスラーム過激派とされ、イラクやアフガニスタンや、イスラエルとパレスチナの紛争は世界にとって非常に深刻な問題である。これら現代の問題を真に理解するためには、やはりイスラームの理解が欠かせない。
本書はイスラームの教義や歴史、発展について一から詳しく、しかもわかりやすい表現で解説している。私もこれを読むまではイスラームについて「アッラーが唯一神」や「メッカに向かって礼拝」など、ほぼ表面的にしか知らなかったが、これを読んでイスラームの世界をより身近に感じることができた。ちなみに、本書によると「イスラーム教」という言い方は、語義的に正しくない。「イスラーム」というアラビア語は「教え」という意味を内包しているので、「イスラーム教」だと屋上屋のようになってしまうのだ。このように、本質から理解することによって、いろんな認識の誤りを直すことができる。
私たちはイスラームについて表面的、しかも偏った目で見ていることが多いのではないか。「一夫多妻制」「断食」など文化の違いへの奇異の(しかも「野蛮」という)目や、過激派や紛争問題にのみ着目しての警戒の目。しかし、全てには彼らなりの理由というものが存在する。
特に大事なことは、「イスラーム」はムハンマドが部族紛争を調停したという経緯などから、政教を分離せず、宗教によって社会を形作るべきだという教義があることだ。だからこそ、欧米が彼らにとっての「民主的」で「合理的」なシステムをよかれと思って導入すると、ムスリムはイスラームが理想とする社会を実現できなくなり、過激派のようなアレルギー反応をおこしてしまう。このような宗教のあり方は、グローバル化している現代から見ると確かに非効率であり、ムスリムたちにとって折り合いをつけるべき大きな課題ではあるが、だからといってわれわれ外部の者がその教義を勝手に踏みにじっていいということはない。
「合理的」という言葉はその社会の道徳が決めるのではないだろうか。そうでなければ、働いてる暇があったら他人からお金を盗んだ方が「合理的」という結論もありうる。ならば、わたしたちは、自分たちにとってではなくイスラームにとって「合理的」な方法を考慮することが必要なのではないだろうか。

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