2009年9月28日月曜日

【ホンヨミ!】We think-ぼくたちが考えるに マス・コラボレーションの時代をどう生きるか?【大賀】

チャールズ・レッドピーター著「We think-ぼくたちが考えるに マス・コラボレーションの時代をどう生きるか?」(2009年、エクスナレッジ)
2009年9月27日読了

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 自分で買って読む本の大半は新書(※歴史関係の本以外)だった。しかし最近それだけでは知識を蓄積できないと感じ、久々に本屋に行きじっくりと本を見て回った。その結果見つけたのが本書である。本書は「イギリスで遅れてやってきたWEB2.0に関する本」とされており、梅田氏の「ウェブ進化論」「ウェブ時代をゆく」を読み、既にWEB2.0に関しての理解がある大多数の日本人にとっては「今更か」という感じだろう。しかし私のような、いわゆる忘れっぽくて知識の蓄積が苦手な人間にとっては、本書を読むことで知識の再整理をすることができ、非常に面白かった。
 We-thinkというのはすなわちWEB2.0により、オープンなプラットフォームで、人々が協働し何かを創り上げたり、あるいは何らかの問題解決の道筋を示したりするようになったことを示す。もっとも顕著な例はWikipediaだ。Wikipediaは、「集団の知性」を生かした最高の辞書として今や大きな力を持っている。大学の教授などに言わせれば、「あんなものは愚かな群衆が作り出した、信頼性の薄い情報だ」という批判が生まれ得るだろう。確かに中には真偽の疑われる情報もある。しかしこうした「アヤシイ」情報に関しては、人議論ページを設け、人々がたがいに議論し合って真実を追求する体制で対処している。もはや群衆は「愚」ではなく、それぞれ良質な「知」を持った存在なのだ。
 筆者は本書において、様々な事例を挙げながら、We-thinkの仕組みとその価値について論じている。その事例のひとつに、韓国において成功を収めた市民ジャーナリズム「オーマイニュース」がある。しかし、はたして市民ジャーナリズムというWe-think型は必ずしも成功を収めると言えるのだろうか?答えはNoである。なぜならば、同じくWe-think型をとった日本版オーマイニュース(2008年以後は「オーマイライフ」という名だった)が、2009年4月24日に廃刊したという「証拠」があるからだ。

 日本版オーマイニュースは、一般市民がネットに記事を投稿して成り立つ報道メディアとして、韓国オーマイニュース社とソフトバンクが共同出資し、鳥越俊太郎氏を編集長として2006年3月に設立。日本における初めての「市民参加型」ジャーナリズムとして注目を浴びた。だが2006年以後、経営が悪化し、2008年に名前を変えて再スタートを切ったものの結局失敗に終わり、今年4月に廃刊という道筋をたどった。一見すると、ウィキペディアの「新聞版」のようなオーマイニュースが何故失敗に終わったのか?その理由は、オーマイニュース経営陣の意識にあった。経営陣は、市民ジャーナリズムをオーマイニュースの売りとしていながら、既存のメディアと同じ経営方法という矛盾した行動を行ったのだ。市民記者の原稿料はわずか300円でありながら、経営陣はマスコミ業界重役並の給料。市民の自由な言論を推進していながら、経営陣は「ネット世論」の真偽を疑い、結局のところ記事の採用基準に経営陣の考えが色濃く反映されていたこと。―結局のところ、日本版オーマイニュースは、既存メディアの体制を維持したまま、口先だけで市民ジャーナリズムを語ったものにすぎなかったのだ。
 この失敗例は何を語っているのか?-それは、We-think型ビジネスモデルにおいても、トップダウンとボトムアップの組み合わせをしっかりとしなければ成功しないということだろう。日本版オーマイニュースにおいては、ボトムアップを奨励する仕組みが明らかに少なかった。

 We-thinkの事例が必ずしも成功するとは限らない。時には大成功を収め、時には失敗に終わる。そのことを念頭に置いた上で本書を読まなければ、大きな誤解をしてしまいそうだ。


※It+PLUS「オーマイニュースはなぜ失敗したか」http://it.nikkei.co.jp/internet/column/gatoh.aspx?n=MMIT11000029082008
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT11000004092008

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