2009年7月2日木曜日

【ホンヨミ!】心にナイフをしのばせて【大賀】

奥野修司著「心にナイフをしのばせて」(2009年、文春文庫)
2009年7月2日読了

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償いとはなんだろう。更正とはなんだろう。一体なんのために刑罰はあって、一体なんのために法廷が存在しているのだろう。・・私たちはこうした疑問に向き合わねばならない時期に来ている。裁判員制度は既に始まっている。いずれ私たちは裁判員として法廷に参加することになるだろう。そして、罪人を裁くという役目を担うのだ。加害者と被害者、双方の考えを汲み取り、「冷静な」判断を下さなければならない。それは非常に重い役目だ。本書を読み、改めて感じさせられた。
本書は、「28年前の酒鬼薔薇事件」と称された、1969年の少年犯罪の被害者遺族を追ったノンフィクションである。被害者及び加害者は当時わずか高校一年生の少年たちだった。被害者の加賀美洋君は、無残に殺されすべてを奪われた。残された父母、そして妹は、その後の人生が「地獄」となった。一方で、加害者の少年Aは、少年院退院後に見事「更正」し、最高学府へ進学し、立派な弁護士となった。ろくな謝罪もないままに。被害者だけが苦しみを強いられ、加害者が「国の庇護」を受けながらのうのうと生きていられるという矛盾だらけの社会。憤りを感じずにはいられない。今でこそ少年犯罪に関する論議が重ねられ、被害者を支援する活動は増えたが、当時の日本社会にはそのかけらもなかった。被害者遺族はただ、ただ、苦しい日々を送り続けるしかなかったのだ。
結局、弁護士となった少年Aは被害者遺族に謝罪をするどころか、「自分は悪くない」と言わんばかりの態度のまま姿を消した。しかし被害者遺族は、そんな「非情な」少年Aを恨むことすらできなかった。恨んでも憎んでも殺された洋君は戻ってこないのだから。本書を読み進めるのは正直言って、きつい。遺族の苦しみややるせなさをひしひしと感じてしまい、何度も目を臥せたくなった。

本書の題名である「心にナイフをしのばせて」・・これは被害者遺族の一人、洋君の妹であるみゆきさんの言葉だ。少年Aへの恨みをどこにもぶつけられず、ただ、鋭利な刃物を胸に抱いていた。その刃物はときに自分を、周りの人々をも傷つけた。その苦しみは推し量ることができない。
裁判員になり人の裁きに加わることはけして簡単なものではない。そのことをしっかりと私たちは意識していなければならない。

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