2009年7月7日火曜日

【書評】スポーツブランド【斉藤】

 スポーツブランド 松田義幸  

 スポーツブランドと聞いて、一番に頭に浮かぶのは、アディダスでもなくプーマでもなくやはりナイキではないだろうか。そんなナイキはいかにして私たちを魅了するブランドを確立してきたのだろうか。商品の価値がハードからソフトに移る知価革命が起こった現在、肉体労働ではなく価値を創造する人間の頭脳が利益を上げているという点で、ナイキはマイクロソフトと同じ位置にある、という考察がとても興味深かった。一流スポーツ選手を豪華に起用し、大規模に行われるナイキのCMは、アメリカでフィットネス革命が起こるというほど、単に商品のCMにとどまらないマインドシェアの力を持っている一方で、莫大な費用をかけていて、そのつけは全部生産工場で働く労働者に回ってきているという批判がある。いはばナイキは搾取企業なのではないのか、と。しかし、この企業評価は肉体労働がそのまま商品価値につながっていた産業社会での評価にすぎない。ナイキが収益を上げているのは労働者の肉体労働ではなく、人間の頭脳のクリエイティビティなのだ。製品制作だけでなく、プロモーションから価値の創造まですべてが商品価値につながる、という新しい社会の基準に合わせた企業評価をするべきだ。
 しかし、やはり搾取企業だというイメージは以前として払拭することはない。そこでもう一つナイキがとった行動として興味深いのは、パブリックと社会契約をしたということだ。以前世界経済フォーラムで、アナン事務局長は国連と民間企業の協力をはかるためのグローバルコンパクトというコンセンサス構想を発表した。ナイキはこれに参加している。内容は環境、人権、労働条件をよりよくするという原則だ。このプロジェクトに参加するとこれらの諸原則を守らなければならない。グローバリゼーションの影響で、ナイキのような成功を収めている国際企業は批判に会いやすい。そんな国際社会でいったん「搾取」というイメージが付着してしまうとさらなる連想効果によりなかなか払拭することができない。高度な商品の創造はし続ける、しかし社会に対する不利益を改善していく、というスタンスに立つナイキは「搾取」ではなく「創造」というイメージを確立していく可能性があると思う。

 人気がある、売れているということは商品以外に何か理由があるのだ。「商品の実質価値プラス心理価値」が求められる現在であるからこそ、スポーツブランドでもただ高機能な製品をつくればよいというものではない。今まであまりスポーツブランドについて考えたことはなかったが、本書をよんでその奥の深さに感動を覚えた。

 

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