2009年7月14日火曜日

【ホンヨミ!】世襲議員-その構造と問題点【大賀】

稲井田茂著「世襲議員-その構造と問題点」(2009年、講談社)
2009年7月14日読了

★メディアコムで「文章作法」の授業を担当し、また、今年度は合宿にも来てお話してくださった稲井田先生の著書がついに発売です!これは買うしかない!というわけで皆さん是非是非買って熟読しましょう!

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 「日本の政界は世襲議員ばかりだ。」ニュースや新聞などで、こうした非難の言葉が口にされるたびに、私は内心首を傾げていた。「世襲、世襲っていうけど、『世襲』の定義って一体何だろう。今現在、世襲議員の数はどれくらいいるのだろう」という疑問があったからだ。世襲議員の存在を頭ごなしに批判することは簡単だ。だがその存在をしっかりと把握しておかなければ、その批判には効力が無くなってしまうだろう。詳細なデータを分析しなければ、論理的でかつ正確な批判はできないのだ。
 本書は、現役共同通信政治部記者が書いただけあって、現場取材及び調査に基づいた、「机上の理論」にとどまらないデータ分析が行われている。まずは「世襲議員」の定義について。筆者は世襲議員を、「父母(養父、養母を含む)または祖父母が、同じ県内の選挙区で当選し、国会議員または知事(政令市長を含む)国会議員」としている。この明確な定義により読者側としては「世襲議員」の存在がイメージしやすくなる。すると、数々の実態が浮かび上がってくるのだ。2009年6月1日現在、世襲議員の数は133人、全議員中18パーセントの割合である。すなわち5人に1人が世襲議員ということになる。世襲議員が少なく、ましてや国の最高責任者が「親子代々」であることはめったにないアメリカやイギリスの例を見れば、日本がいかに世襲の多い国であるかは明白だ。
 ではなぜ、「世襲議員」がこれほどまでに多いのか。筆者はその理由として次のように述べている。「選挙で当選する際に必要な『地盤』『看板』『カバン』が世襲議員には既に揃っている」と。「地盤」とは選挙区での個人後援会のことであり、「看板」とは知名度、そして「カバン」とは選挙資金のことだ。この三要素を受け継ぐことが可能という点で「世襲議員」は他の候補者よりも一歩先のスタートラインに立っているのだ。また、日本において選挙方式が自書式であるという点も関係がある。有権者は選挙の際に投票用紙に候補者の名を書くが、その際に、全く知らない名前よりは知っている名前(名字)の方が書きやすい。つまりは「名字が同じ」息子や娘婿に投票しやすくなるのである。こんなところにも、「世襲議員」増加の背景がある。
 「世襲議員」が多いことの最大の問題点は、一般の人々が政治家となるチャンスを減らしているという現状にある。こうした状況を踏まえた上で、「世襲議員」を規制する何らかの法律を制定していくべきだと筆者は強く主張している。世界金融危機が発生し、日本社会が揺らいでいる今必要なのは、血筋ではなく実力によって裏付けられた政治家だ。私自身もこの考えには大きく同意したい。
 本書を読み、ふと考えた。もし私のような庶民が政治家を志すとして、大成するまでにはどのくらいかかるのだろう。首相になることは可能だろうか?・・しかしいくら想像力を働かせてみても、自分が政治家となっている図すら思い浮かばない。近い将来、子どもたちが「将来は政治家になる!」という夢を語れるような社会を実現させるためには、「政治家」という存在に対する壁を取り払う必要があるだろう。そのためにはやはり「世襲議員」の増加は批判させるべきものなのだ。

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