佐藤尚之著『明日の広告』
広告はラブレター。ラブレターを書くためには相手のことをよく知る努力、相手のことを考える必要性がある。広告が商品本位のものになっては消費者には伝わらない。広告は消費者本位で考えていく必要がある。
以上がこの本の骨子だろう。文章にしてしまえばほんの3行程度。しかし、この本は他にも新鮮な気付きを与えてくれた。それはインターネットやモバイルが台頭してきた中での、既存メディア、もっといってしまえば、新聞とラジオの広告への可能性だ。
まず短くて済むラジオから書く。ラジオはマスコミ4媒体広告費では、断トツで最下位だ。ラジオというメディアがあまり利用されなくなって久しいため、このことは仕方のないことなのかもしれない。
しかし、裏を返せば、絶対にラジオを聴いているリスナーは存在する。しかも、インターネットやモバイルなど、数多くの暇つぶしのためのコンテンツが存在する中、ラジオを聴き続けているリスナーはなかなかにコアな人である。そんなリスナーに対しての「ラブレター」を書けば、受け取ってもらえる確率は極めて高いだろう。
ラジオリスナーはテレビを視聴する時のようにただなんとなくCMを見たり、またCMの際にザッピングすることは少ない。ラジオに最大限の注意を払っている。だからこそ、届くCMがあるのだと。
次に新聞である。新聞の広告費も年々低下しており、2009年にはインターネット広告費が新聞を抜くのではないかとうわさもされている。僕自身、新聞広告を見ていつも思うのだが、これは誰が得するんだろうかと感じる。新聞広告は主に新聞を読む層、つまり30代~60代のサラリーマン向けに打たれているのか、車やマンションの広告が多い。
しかし、集英社の伝説的マンガ『SLAM DUNK』の著者、井上雄彦が2004年に、売上累計1億冊を記念して、新聞6紙で展開した「SLAM DUNK1億冊感謝キャンペーン」広告を見れば、まだまだ新聞広告にも未来は残されているのだとつくづく感じ、本著の第5章にその内容が書かれているのだが、自分自身『SLAM DUNK』で何度涙したかわからない人間なので第5章を読んでいる際には鳥肌が止まらなかった。
「SLAM DUNK1億冊感謝キャンペーン」の対象となったのは言うまでもなく、『SLAM DUNK』を読んで涙した人々だ。ジャンプ黄金期終盤にリアルタイムで読んでいた人、友達からこれを読まないと人生の半分損すると読んでジャンプ暗黒期に入り読み始めた人、そのどちらもが対象だ。裏を返せば、『SLAM DUNK』の存在を知らない人などどうでもいいのである。
だから井上雄彦氏が書き下ろしたイラストと、その感謝の言葉(読者の『SLAM DUNK』体験を通じて)、そしてキャンペーンに際して開設されたサイトのURLだけを記載したものだった。しかもそのサイトも『SLAM DUNK』を知らない人にとっては不親切な設計であったが、ファンからすれば自分が涙した、湘北高校対山王工業の試合の観客席に参加できるという読者向けの超親切設計なサイトだったのだ。
新聞広告は、毎日日本全国の家庭に数千万部単位でリーチできるというメリットがある。そのメリットを活かし、消費者のことを第一に考え、その紙面の大きさにより、ヴィジュアルに特化した広告を作れば(実際『SLAM DUNK』の広告はそうだ)、ポスターとしての価値もあり、それを各紙で差別化を行えば新聞を買いに奔走する消費者も現れる。
いかに消費者の体験と一致させ、またこれからの時代はウェブ上で消費者の参加を促す仕組みを設計するか。このことが広告を考える上で重要になってくるのは間違いない。
2009年6月18日木曜日
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