中村伊知哉著、「デジタルのおもちゃ箱-MITメディアラボから見た日本」(2003年、NTT出版)
2009年5月14日読了
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究極のメディアエッセイ。いや、究極のノンフィクションと言えるかもしれない。本書は、MITメディアラボという最高にCreativeな環境について、そこでの研究と人々の様子を事細かに描いている。その描き方はまるでSF小説のようだが、れっきとしたノンフィクションである。私がスター・ウォーズを見て夢描いていたような世界が、この地球上で確実に起こっているのだ。衝撃だった。
中村氏は言う。メディアラボとは「おもちゃ工場」であり、メディアラボの研究員及び全世界の人々が夢見るような世界は「子どもたち」がかなえていってくれるだろう、と。メディアラボは単なる研究機関ではないのだ。研究員たちは皆子どものように純粋な好奇心とチャレンジ精神に充ち溢れている。彼らはけして「不可能」という言葉を口にしない。たとえ現実からかけ離れたような物事でも、アイディアひとつで「やってみる」のだ。何という場所だろうか。まるでピーター・パンの住むネバー・ランドのようではないか。
本書を読んで最も印象に残ったのは、メディアラボのスピリットとして挙げられた以下の4つの点である。
その1「多様性」
メディアラボには組織図というものがなく、Flatな環境下で各自が自由に意見を述べることができる。雑多でオープンな研究機関なのだ。そのため、「同質性」を重視する日本人には少々居心地が悪い場所になっている。ただ逆にいえば、日本人は自らのそうした性質のせいでcreativeな考えを生み出せていないということが挙げられるだろう。多様な意見を認め、尊重し合う姿勢が、日本人がcreativeな人間となるために必要なことと言える。
その2「デモ」
メディアラボでは研究の結果を必ずデモンストレーションする。単なる机上の理論では終わらせないという強い意思がそのスピリットの中に見て取れる。どんなに素晴らしいアイディアでも、実際に形にする段階にまで落としこめなければ価値がない。「では、実際にどうすればいいの?」-これは、金ゼミの活動においても同様のことがいえるだろう。問題点を提示し議論するのはまだ簡単なことだ。大切なのは、議論から、「新たなビジネスモデル」を実際に構築していくことだ。
その3「創造力」
創造力すなわちcreativityはアイディアを生み出す根本となる基本精神だ。そのためには研究に対する強いインセンティブと、強い忍耐力が必要とされる。自らを「creativeな人間」だと認め、何かを創りだそうとする努力を惜しまず、たとえ失敗してもへこたれないような意思が重要である。
その4「変化」
メディアラボは日々変化してきた。変化することに対して臆する気持ちが無かった。研究の結果、どんなに素晴らしい結果が得られたとしても、その栄光や成果を引き摺らない。それに対して奢ることもしない。日々変化し続ける世界の中で、日々変化しながら新たなモノを創りだす姿勢を維持している。このスピリットは何よりも難しく、そして大切なものかもしれない。人間は傲慢な生き物で、過去の栄光を保持したがるものだ。その人間の「性(さが)」と言えるものに敢えて反発するメディアラボの研究員たちの精神力はどれほどのものだろう。
金ゼミというcreativeな環境下において、いかに自らのcreativityを伸ばしていけるかは今後の自分の活動次第だ。上にあるようなメディアラボのスピリットを参考にしつつ、がんばってみたいと思った。
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