2009年5月21日木曜日

【書評】サマンサタバサ 世界ブランドをつくる【斉藤】

サマンサタバサ 世界ブランドをつくる 寺田和正

 ブランドの意義や価値を示してくれる一冊だ。大学内でよく見かけるカラフルで斬新なバッグ。実はサマンサタバサは日本のブランドなのである。著者の寺田和正さんは、1994年に女性向けバッグのブランド「サマンサタバサ」を設立させ、世界進出を目指し続け、現在ではニューヨークにも店舗を設け、さらにはメンズブランドやオンラインモールにも着手している。

 「ブランド品」とはお客の憧憬の対象になるような価値をもっている商品である。その価値とは価格、質、店、宣伝によって創り出される。売れるようにといって価格を下げてしまえばもはや「どこでも手に入るもの」となってしまうし、大量生産品のように万人受けするものであってはならない。したがって基本的にマーケティングを念頭に置いていないのである。いかにしたら売れるか、ではなくどのようにお客に喜んでもらえるか、満足してもらえるかを考えることが重要だ。したがってこの観点から、店舗や宣伝もすべて「お客のために」商品がどうしたらより映えるか、を考えて設計しなければならない。日本のブランドは世界のブランドに駆逐されている。銀座のブランド街を見れば一目瞭然だが、日本人はどことなく海外ブランドに目がない。では日本初のブランドはどうしたら世界で生き残れるのか。それはまず、ブランド品は一般商品と同じ方法では売れない、ということに気づくことだ。

 ブランド品を販売することにおいて大切なのは、購入したお客とその後どう付き合っていくか、だと思った。これは現在のネット広告の考え方と似ているが、リピーターを増やす秘訣になる。いかに「このお店で買ってよかった」と思わせることができるか。そのためにはある程度の閉塞感が必要だ。自分だけが特別。ここでしか買えない。単にたくさん売ることでは成立しない分野があるのだ、と思った。サマンサタバサはお客と上手く付き合っていくための数多くの工夫をしている。その中でもっとも興味深かったのは、広告である。CMやポスターには海外や日本の人気モデルが起用されているが、その理由は「あのモデルと同じものが持ちたい」と思わせるためではない。「自分が買ったものをあのモデルも持っている!」という喜びと満足感を与えるためなのである。
 サマンサタバサの商品のデザインから考えると、はっきりいってこんなにも経営方針に深い哲学があるとは思っていなかった。ブランドに対する考えが少し変わった気がする。著者の寺田さんの考え方も非常にユニークで、自分の思考が一皮剥けた気がする。「人が無理というところにこそチャンスがある。だから私はあえてとんでもない提案をして無理と言ってもらう」のだそうだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿