2009年5月27日水曜日

【書評】ジャーナリズム崩壊【勝部】

ジャーナリズム崩壊


海外経験豊富な上杉隆氏の日本のメディア・ジャーナリズム(特に新聞)に対する批判がアメリカとの比較を中心にして展開。内容は、記者クラブの閉鎖性、新聞の無謬主義、クレジットなしの引用や匿名記事の無責任・・・などなど。


この本を読んでいる時は「確かに」と頷いていましたが、ふと「国境なき記者団」が発表している世界報道自由ランキングを思い出しました。このランキングがどこまで信用できるかは別として(日本は37位と微妙な位置づけですが)アメリカの48位を見ると、筆者のアメリカ絶賛はいささか胡散臭く感じられました。「隣の芝生は青い」理論で海外、特に日本はアメリカの制度やロジックを、日本の伝統・文化・歴史(包括的にして誤魔化すと「土壌」という)を軽視して讃える傾向があるのを念頭においておくべきだと思います。また、その制度やロジックは日本に根付くのか、根付かないならば、どう「加工して」導入するべきかも考えなければならないでしょう。

同氏は筆がたつので、だまされてしまいそうになるのですが、筆者の主張はほとんど全てアメリカ視点の価値観で、「国民の声」は少ないのではないでしょうか。どの国民にとっても他国の文化には違和感を覚える一面があることは否定できません。これは前出の「隣の芝生」と矛盾するようで矛盾しない。著者にはアメリカのジャーナリズムが肌に合っていただけで、それが日本国民の大多数の肌に合うとは限らない、そこの違いではないでしょうか。本書の主張、これは日本国民の「声」なのか、それとも日本にいる海外の記者の「要望」なのか、それとも上杉氏の個人的な「恨み節」なのか。ただ、「新聞社には有名大学、新卒、男性」ばかりだ、アメリカでは大学名なんかより専攻の方が重視される、というのは完全にバイアスが掛かっていると思いました。余計なことを書いたような気がする。

最後に、散々批判してきたが、同氏の文章力と知識、洞察力は敬意に値するものがあると思います。海外のマスコミに興味がある方にはこの上なく良い教科書になると思います。あと、頻繁に紹介されていた「官邸崩壊」も是非読んでみようと思います。

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