2009年5月21日木曜日

【書評】フューチャー・オブ・ワーク【大賀】

トマス・W・アローン著「フューチャー・オブ・ワーク」(2004年、ランダムハウス講談社)
2009年5月21日読了

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 春休みに岸本君が書評を書いてから気になっていた本。今まで読んだことの無いジャンル(組織論やマネージメント論)だったためにひとつひとつの言葉の意味を消化するのが大変で、読むのに時間がかかった。正直に言ってしまえば一回読んだだけではわからない部分もある。自分でも購入し、時間があるときにじっくりと読み込んでみたいと思う。
 本書は2004年に出版されている。2004年といえば、「ライブドア」と呼ばれる会社が台頭しはじめ、プロ野球の買収やLindowsやOperaといったソフトの販売を行い、「ホリエモン」と呼ばれる若干32歳の社長が注目された年だ。いわば、力を伸ばし続けたIT業界の脅威に社会全体が揺らがされた時期であったといえるだろう。では、そのIT業界は何を行い、何を目指しているのだろうか。本書はその問に対して「情報伝達コストの低下」という言葉を多用し説明している。
 情報伝達コストとはいわゆるコミュニケーションコストのことだ。かつて、文字の無い太古の時代においては、情報伝達のためには人々が顔を合わせて対面する必要があった。その後、文字が生まれたことで、手紙という伝達手段が生まれた。遠くの仲間に指示を与えるためには「狼煙」を使うなどの知恵も生かされた。また、情報伝達のために便利な機械である「印刷機」が生まれたことでコストは更に低下した。現代では情報伝達コストは更なる低下を見せている。その原因となっているのがIT(情報技術)の発達なのだ。電子メールや携帯電話は、今や国境をも超えて人々の間のコミュニケーションを実現させている。ミクシィやFacebook、TwitterといったSNSも、情報伝達コストの低下を促す新たなコミュニケーションツールといえるだろう。こうしたコストの低下に伴い社会に存在する組織モデルも変化してきた。より大きな組織経営が可能となり、その中での情報伝達コストを低く設定するために、中央集権的な「集中化」現象が起きたのだ。だが組織内における情報伝達コストが十分に下がったとき、もはや「集中化」を続けることは無くなった。王国が民主主義国家となったように、人々は「自由と柔軟性」を求めて再び「分散化」された組織を求めるようになった。‐この流れは、20世紀から21世紀にかけてのビジネスの世界でも同様のことが言えるという。
 では、今後のビジネスではどのような選択をすべきなのだろうか?筆者は、「集中化と分散化」を組み合わせた上でのモデルが良いとしている。以下は、筆者が提示している単純な法則である。非常に面白いと思ったのでそのまま示すこととする。このやり方は(全ての状況において当てはまるわけではないだろうが)今後行うグループワークにおいても生かせると思う。

●多くの人間のモチベーションと創造性が大事なとき‐分散化
 モチベーションの高い従業員に多種多様な仕事をする機会を与えるということは、彼らに自身の能力を試す「場」を与えることことになる。そうすることで、従業員の持つ確信性を促進することが可能となる。仕事の遂行の仕方を選択する「自由」と、それに付随する「責任」を身を持って感じさせることで、従業員の成長を促すことも可能だ。

●問題解決が重要なとき‐集中化
 組織が何らかの問題を解決する必要性に迫られているときは集中化が望ましい。分散化して多くの人々の意見を募ることも可能だが、そうすると解決の糸口がかえって見つかりにくくなってしまう。

●ひとつのビジョンのもとでの一体化が不可欠なとき‐集中化
 数多くの人々が関わって製作される映画が、ひとつの芸術家のビジョンで統合されるように、組織においても共通の「ビジョン」は必要となる。これは金ゼミで言うところの「Conceptual Thinking」や「reative=New&Meaningful」といった基本的理念のことかもしれない。組織の構成員が共通したひとつの理念を持っていれば、組織全体として一貫した方向性を持つことができる。そのためには、組織の代表が理念に基づいた上での決定を下す姿勢も必要となる。

●少数の意思決定者しかいないとき‐集中化
 これは私にとって最も意外なアドバイスだった。意思決定者が少数であるならば、たとえ分散化しても、その意見をまとめることなど容易いと思っていたからだ。しかし筆者は、全ての状況下で組織の下位レベルの人間が決定権を持っていることは、かえって愚かな決定を生み出すだろうという警告を述べている。専門的知識が必要とされる事柄の決定であればその知識を有している人のみに決定権を与えるべきであり、状況に応じて意思決定者は選ばれるべきなのだ。下位レベルの人々には、その他のふさわしい状況で決定権を与えるのが望ましい。そうすることで彼等の能力は伸びるだろう。

 組織論というと何となく堅苦しいイメージがあり、企業人になってから読めば良いような分野に思える。しかし、ゼミもサークルも人々が集まる「組織」であることは変わりない。今後はこうした分野の本も積極的に読み、マネージメント能力を身につけていきたいと思う。

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