2009年5月24日日曜日

【書評】ハリウッドはなぜ強いか 【田島】

「ハリウッドはなぜ強いか」著・赤木昭夫

先日、株式会社ロボットの取締役 阿部秀司氏の公開講座に行き、映画産業に興味を持っていた時期だったので、本当にいいタイミングで本を読むことが出来たと思う。
講演の中で、阿部氏は「日本映画が、例えば日本でハリウッド映画が大々的に全国上映されるように、世界で売り出される」未来のビジョンを提示した。私はそれを聞いたときに漠然と、「そのためにはアカデミー賞のシステムが邪魔だ」と思った。
現在日本で全国上映されている作品を分析すれば、邦画、洋画(主にハリウッド産)そして少しのアジア映画の三つに分けることができるだろう。全国上映されるか否かを分けるのは、全国に上映しても採算を取れるかどうかの収益見込みだと思う。その収益見込みは、また二つのタイプに分けられる。内容と、ファン層があるかどうか、だ。内容は、マニアックなものよりも、万人受けするものが望ましい。したがって、「だれもがわかる」莫大な制作費のハリウッド製のエンターテイメント映画が選ばれる。また、事前にその国内市場にその映画に対するファン層があれば、安定した興行収入が予想できる。邦画を全国上映できるのは、出演している俳優などの知名度が高く、ファン層が既にあるからだ。少し前に韓国映画を全国上映できたのもまた然り。最近の邦画のほとんどがドラマや漫画原作なのは、より安定したファン層を求めるものであり、日本の映画界が冒険できなくなっていることを示している。(テレビ局が参加しているものが多いのも、テレビでCMを流し、プロモーションでファンを作りやすいからであろう。)
「賞」も、ファン層を増やす大きな要素の一つだ。世界には多くの映画賞があるが、それらは大衆からみるとやや難解、サブカルに感じられる映画が多く含まれており、もっとも興行収入に影響する映画賞とは、やはり「アカデミー賞」であろう。しかし、それだけ世界に影響力がありながら、アカデミー賞があくまで「アメリカ映画産業の賞」であることでひずみが生じる。私がアカデミー賞と映画産業の関係に感じていた違和感が、本書でもしっかり説明されていた。「アカデミー賞は、アメリカ映画産業の都合が色濃く反映されている。その違和感を隠すため、「アカデミー」というまるで学術性があるかのような名前がつけられた。」

今年作品賞を受賞した「スラムドッグ・ミリオネア」は、映画産業においても注目すべき賞なのではないだろうか。この作品は監督こそダニー・ボイルであるが、キャスト、ロケほとんどがインドで行われており、インド映画と言ってしまっても差し支えないほどだ。この映画の興行収入の伸びも、やはりアカデミー賞の効果が大きいが、「純アメリカ製」でなく、インド映画ということで事前のファン層もないに等しい映画が、その内容で世界の市場で受け入れられていることは注目に値する。日本の邦画は、国内市場で採算がとれてしまうあまり(「パラダイス鎖国」?)、国内の観客の嗜好に媚び、世界に発信できる映画が少なくなっている。ハリウッド製の純エンターテイメント映画の人気が低下している今、日本の映画産業は、安定志向のドラマ原作作品ではなく、世界に恥じないクオリティを持った作品を作ってほしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿