2009年5月23日土曜日

【書評】座右の諭吉-才能より決断【大賀】

斎藤孝著「座右の諭吉-才能より決断」(2004年、光文社新書)
2009年5月23日読了

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 慶應義塾大学入学前に送られてきた「福翁自伝」・・実は1ページも読んでいない。ゆえに、私は福沢諭吉先生のことも慶應義塾の歴史も独立自尊の精神も殆ど知らない。おかげで、2月に上野で開かれていた「諭吉展」に行っても頭にハテナマークが浮かぶばかりだった。そこで初めて、慶應生なのに福沢諭吉のことを何も知らないのは問題かもしれないと焦った。本書はそんな私にとって、わかりやすく簡潔に福沢諭吉の「生き方」の指標を示してくれている。
 最も印象に残ったことは、慶應義塾の「独立自尊」の精神が意味するところが何かについてだ。私を含む多くの人々は、独立というと「孤独」や「孤高」を奨励しているのかと思っているのではないか。だが実際には、「独立自尊」の言うところの独立とは、一人で棒のように立っている像のイメージではなく、自身が運動体として巨大な遠心力の中心になっている様子を示しているのだという。絶対的な自信を持って生き、世間に流されるのではなくむしろ自分が世間の流れを作ってやる、という強い意志をつけろと福沢先生は言っているのだ。慶應義塾に居ながらその精神をきちんと理解できていなかった自分に驚くと同時に、本当の意味での「独立自尊」を知ったことで、今後はそれを体現していくよう努力したいと感じた。

 ただ本書は私の考えとは相いれないものもあった。確かに福沢諭吉の「他人に揺るがされることのない」精神は大事だが、人間はそこまで強い生き物ではないだろう。真っ直ぐすぎるが故の玉砕。他人に縋りついてしまうこと。全て「人間らしさ」だと思う。私はその心を失いたくはない。福沢諭吉は「悩むことは時間の無駄だ」と感じていたというが、人間は悩んで悩んで悩みぬくことでより豊かな人生を送れるのではないか?(姜尚中さん著作「悩む力」を読んで感銘を受けたことが影響している意見ではあるが)福沢諭吉の生き方を反面教師としたい部分もあるというのが本音だ。

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