ユビキタスコンピューティング環境での組込OSであるTRON(トロン)の開発プロジェクトリーダーでもある坂村健氏の著書で、日本が真に「イノベーション」を生む事ができる国へと変わるための提言が成されている。
著者は、少子高齢化を筆頭に様々な問題が顕在化してきている日本が復活するためには、「イノベーション」が必要であると主張する。著者のいうイノベーションとは、「利益を生むための「差」を生むための行為(「差」そのものではなく「行為」であることが重要)」であり、簡単にいうと「これからの日本をどうしたいのか」という風に説明がなされる。イノベーションには具体的には3種類あり、
・プロダクトイノベーション(人とは違う製品を作る事)
・プロセスイノベーション(人とは違う「差」を生むためのやり方を考える事 例:トヨタ「カンバン方式」)
・ソーシャルイノベーション/インフライノベーション(制度や構造をつくる事)
上記3つのイノベーションのうち、日本は最初の2つは得意であるのに対して、3番目の「制度イノベーション」が極めて弱いことを指摘している。
制度イノベーションとは、人とは違うことをやるための枠組み作りである。例えば日本は携帯電話産業において、極めて高い技術力を持っているが世界的なシェアを獲得することに失敗している。それは単に「PDCという通信方式を採用したのが原因だ」というような議論に単純化するのは間違いであり、優秀な技術を持ち得たとしても、それを広げるための制度的な枠組みのイノベーションが決定的に弱いという事だ。日本と韓国の携帯産業での衛生携帯放送の普及を比較した事例の部分は、制度イノベーションの重要性を痛感させられた。
また、イノベーションを促進するためには、
・オープン:情報公開と透明性の確保
・ユニバーサル:誰にでもつかえるインフラ
・ベストエフォート:各人が最大限の努力をし、自己責任を負う
という3つのポイントが重要であると述べられていた。
中でも「ベストエフォート」、つまり特定の目標を敢えて定めずに、望ましい革新が生まれやすい「土壌」を生むような構造をつくることを目指す態度がキーになると感じた。
表面的、形だけのイノベーションではなく、主導的にイノベーションを動かしていける制度を作る事の重要性が痛切に感じた本でした。敢えて「目標志向」を止め、政策スタイルそのものをイノベーションする事が求められる時代が到来しているのだと思います。
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