「深い河」遠藤周作著
遠藤周作は好きな作家のうちの一人で、ひさしぶりに彼の小説を手にしてみた。
この「深い河」は彼の代表作の一つであるが、そのタイトルの通り、とてもおおいなるものを題材とした小説であると思う。しかし文体は非常に読みやすく、純文学特有のとっつきにくさが無くてよい。
この小説は「大津」というインドの神父の姿を通して、人間の愛というものを提起した小説であると思う。「神父」「愛」などと書くと鼻白む反応もあるだろうが、その反応を「美津子」が代行する。大津は『神は存在というより、働きです。』と語る。大津の言う愛の働きは、この作品の中で様々なキャラクターを通じて表現されている。磯部の妻、沼田の悲しみをすくいあげてくれた犬や鳥たち、木口を励ましたガストン、ヒンズー教のチャームンダー女神。キリスト教の家庭で育った大津は、「愛」への信頼を身近なキリスト教に置き換えたのである。作者は、人間は誰でも心のよりどころを求める弱い存在であり、それを宗教や家族、様々なものが包みこんで生きているのだということを伝えたかったのではないだろうか。宗教の種類にとらわれない愛の普遍性である。『それしか・・・この世界で信じられるものがありませんもの。わたしたちは。』という作中に登場するマザーテレサの尼たちの答えが胸に響いた。
現代世界では異なる宗教による対立が数多く起きている。この作品の大津のように、信仰を「実際的存在」から「働き」に置き換えて考えれば、自分の宗教も相手の宗教も少なからず同じ要素を有していることに気がつくだろう。美津子はガンジス河に入りこう呟いている。『信じられるのは、それぞれの人が、それぞれの辛さを背負って、深い河で祈っているこの光景です。その人たちを包んで、河が流れていることです。人間の河。人間の河の深い悲しみ。そのなかにわたくしもまじっています。』この深い河のような大きな視野で捉えることが大切なのかなと感じた。
2010年1月5日火曜日
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