忘れられた日本人/宮本常一
戦前から戦後の高度経済成長期までにかけて、日本中をくまなく歩き、フィールドワークを続けた民俗学者、宮本常一の著書。
前期に学部の文化人類学の課題で読んだ本だが、再度人間観察という視点で読み直してみた。今叫ばれている消費者型のマーケティングは、消費者観察が肝となる。その元祖として、著者の人間観察の手法から何か学ぶことは出来ないだろうかと考えた。
宮本常一の研究は、実際に現地に赴き、人々に混じって生活し、人々の話を聞いて、肌で文化を感じて行われる。文献調査を主にし、「安楽椅子の人類学」と言われるフレイザーの金枝篇とは全く違う、実証的な文化研究である。
彼が話を聞くのは、その土地に住む老人たちである。隠居した老人たちは、半生の記憶を語り継ぐのが仕事だ。彼らの持つ記憶が、語り継がれて歴史となる。公式の文献には収まりきらないこのような歴史の形が、歴史の側面図であり、私たちの文化に根付いている。
たとえば、昔の村落には寄り合いという文化があった。日本史の教科書をめくれば、どんなものであったか、客観的な歴史的役割を知ることは出来る。しかし、それは文化を理解することではない。文化は人と密着して形成される。文化と人が切り離せないものならば、人を理解することなしに、文化は理解できない。著者も、寄り合いの現場に行き、輪に入って話を聞くことで寄り合いを語ることができたのだろう。
消費者を理解することは、その人の背景にある文化を理解することだ。
そのためには、宮本常一が行ったような密着した人間観察を行う必要がある。実際にその輪に入り、よく話を聞くことだ。宮本常一が老人に話を聞きに行ったように、企業は消費者に話を聞きに行かなければならない。今、そのためのツールはたくさん用意されている。「安楽椅子のマーケティング」になってしまわないように、自分の手足を使った調査が求められているのだ。
2010年1月5日火曜日
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