2009年6月17日水曜日

【ホンヨミ!】気の力-場の空気を読む、流れを変える【大賀】

斎藤孝著「気の力-場の空気を読む、流れを変える」(2007年、文藝春秋)
2009年6月16日読了

***

 先日、母校の高校で受験を控えた高校二年生向けに話をする機会があった。どんなことを話せば良いかと尋ねると、先生は苦笑しながら言った。「今の二年生は勉強へのモチベーションも低いし、受験をする気がないみたいなんだ。だから、ちょっとやる気を出させてやってよ。」何という無茶ぶりな!私は焦った。一体何を話せば良いのかとますます迷ったが、大学のこと、将来のことを掻い摘んで話して未来への「夢」を持ってもらい、また同時に受験生時代の話をして勉強の大切さを説くこととした。そうしてついに話す時がやってきた。教室には40名近くの生徒たちが居た。私が前に立ってもぼんやりとした表情を浮かべたままだ。(これはまずいなあ・・)私は周囲を見渡して感じた。教室の空気が完全に「面倒くさい」オーラに染められている。どうしたものか。・・途方に暮れた私の目に、一人の生徒の姿が映った。彼女だけが唯一、背筋を伸ばして私の目をしっかりと見詰めて居た。きっとこの子は私の話を心待ちにしているのだろう。私はようやくうれしくなり、話を始めた。彼女が頷いてくれるたびに私はますます嬉しくなった。きっとこれで、他の生徒たちも刺激を受けてくれるだろう。-私はそう信じていた。
 15分弱の話を終えてもう一度周囲を見渡し、私はその考えが単なる甘えにすぎなかったことを知った。生徒たちの大半はやはり最初に浮かべた表情のまま私をぼんやりと見詰めていた。唯一、一人の生徒だけが私の姿をキラキラした瞳で見つめていた。(しまった)私は後悔した。私は既にやる気のある生徒に向けて話してしまい、その他の生徒のことを全く考えていなかったのだ。
 本書の言葉を借りれば、私は「流れを変える」ことに失敗したのだということになる。筆者は、「冷えの発信源となっている一人の人に向けて話をする」というアドバイスを本書に記している。私はその逆のことをしてしまったらしい。母校に行く前にこの本を読んでおくんだった・・と後悔しても仕方のないことだが。

 斎藤氏の本は、わかりやすい例と言葉で表現されているために非常にとっつきやすく、面白い。本書もすらすらと読むことができた。「聞く力」と合わせて読めば、より「話し上手」で「聞き上手」な人間になれるだろうと思う。ただ、ひとつ思うのが、時には「空気を読まない」ことも必要なのではないか、ということだ。常に空気ばかり読んでいては疲れてしまうし、自分の思っていることを言えなくなる恐れもある。上手く使い分けていくべきなのだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿