2009年12月6日日曜日

【ホンヨミ!1204③】デジタルコンテンツをめぐる現状報告【田島】

デジタルコンテンツをめぐる現状報告 出版コンテンツ研究会・著

雑誌・新聞の部数が著しく落ち、出版不況と言われる現在、出版業界は変革を迫られている。しかしその打開策の一つとして考えられる電子書籍に対し、日本の出版社は戸惑い、革新的な方策を出せていない。本書は、出版社(小学館)、電子書籍プラットフォーム事業者、印刷業者、総務省など、対応の遅れてると言われる日本の電子書籍ビジネスの中でも各分野の有識者に対して行なったヒアリングと、フォーラムの様子を収録した注目すべき本である。

・編集者・出版社の役割とは何か。
インターネットが存在しなかった時代、出版社は作者と共にコンテンツを作り出し、それをパッケージ化し流通させる一連の流れを引き受けていた。しかしウェブの発展とともに、コンテンツはリアルな世界において必ずしもパッケージ化される必要性がなくなった。また、インターネット世界には流通という概念はない。出版社が電子書籍というデジタル世界に及び腰であるのは、アナログな流通とは同じ役割を発揮できないことへの戸惑いがあるのではないだろうか。デジタルの世界では、出版社の立場は一コンテンツホルダーに矮小化せざるをえないが、私は逆にそれをポジティブに考えていくべきではないかと思う。
一つの可能性として、本書の有識者たちは、アナログ世界の経験に裏打ちされた編集社・出版社のブランド力(信頼性の保証)や質の高いコンテンツ作成能力、人脈を情報の氾濫したネット世界に翻訳することが必要だと言っている。私もこれに賛成する。インターネットは出版社を介さない書籍の流通をも可能にするが、長い目で見ればそれは情報の氾濫を引き起こし、信頼性に足る情報がユーザーに求められるようになるはずだ。その時、出版社の人材とブランド力は活用できる。デジタル世界で書籍の出版に関わる「デジタル編集者」的な存在が一刻も早く出版社のなかに登場しなければ、IT業界にそれをとられてしまうのではないだろうか。

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