中村伊知哉・小野打恵編「日本のポップパワー」(日本経済新聞社、2006年)
2009年5月7日読了
***
春休みにマルタへ短期留学へした時、授業で「自分の国のこと」についてプレゼンテーションをする機会を与えられた。他の日本人学生が、いわゆる京都や奈良といった日本の古都についてプレゼンをする中、私は敢えて現代の日本文化としてアニメーションをテーマに取り上げた。先生や他の国の学生は興味津津に聞いてくれた。「1963年に生まれた鉄腕アトムというアニメが日本で最初のアニメーションだ」と説明すると、彼らは皆一様に感嘆の息を漏らした。「ジャパニーズはそんなに早くからアニメーションを作っていたのか、知らなかったよ。素晴らしい技術を持った人々がたくさんいるんだろうね。日本人はそのことをもっと誇りに思うべきだね」マルタ人とイスラエル人のハーフだという先生は、そう言ってくれた。
だがどうにも日本人は自国のアニメーション文化についての知識が疎いように思う。アニメや漫画といったものが好きな人々は多いが、そういった人々を「おたく」として軽蔑、あるいは「変わった人たち」と括ってしまうような見方もある。素晴らしいイラストを描く人や、映像や音楽を作る人々は数多くいる。しかし彼らの創作物は趣味の範囲を超えられていない。(ように見える)日本人のCreativityはもっと誇られるべきものなのではないか?もっと海外へ輸出されるべきなのではないか?
本書は、アニメ、ゲーム、漫画といったいわゆる「サブカルチャー」と呼ばれるものの現状について詳しく考察しており、また同時にこうしたサブカルチャーのファン(アマチュア)たちが作り出す市場(同人誌市場)についても述べられている。文体もやさしいので非常にわかりやすい。また、現状分析にとどまらず、「アマチュアたちがプロになれない理由」として、日本のアニメ・漫画業界の状況も挙げられているのが面白い。
動画サイトでクオリティの高い動画をあげたり、プロの漫画家顔負けの同人誌を販売するアマチュアたち。しかし彼らはプロにはなれない。彼らの力を十分に生かしきれない業界の存在があるからだ。また同時に、彼らはプロになろうとしない。あくまでもアマチュアたちのやりたいことは「好きなときに好きなものを好きなだけ創る」という創造行為だからだ。後者は私の主観だが、本書を読んで感じたことである。だが現在では、こうしたサブカルチャー的な部分も含めたデジタルコンテンツ部門への関心が高まっていることも事実だ。今後の動向に注目したい。
0 件のコメント:
コメントを投稿