2010年1月6日水曜日

【ホンヨミ!0105⑤】文化遺産の社会学【戸高】

小川伸彦、脇田健一、アンリ・ピエールジュディ、山泰幸著、荻野昌弘編『文化遺産の社会学』

 文化遺産と記憶に関する本。
 文化遺産といっても、それは仏像や遺跡といった、世界遺産や国宝のみをさすのではない。景観や、戦争の惨劇を表す負の遺産(それも原爆ドームなどだけではなく、焼け残った遺品なども)、さらに水俣病などの公害の爪痕を残す資料等もここでは文化遺産といっている。

 それでは文化遺産と記憶がどうつながってくるのか?それは文化遺産が博物館といった場所に、実際それがおかれていた文脈から切り取られて保存されることで、よりその場での体験での記憶と結びついて保存されるからだ。

 戦争だと、原爆が落ちた時の時間でとまった時計はその時に原爆が落ち、熱風が時計を狂わせ時間をその時のまま封印したといった事象を想起させる。
 このことは実際にその出来事を体験していない人にも当時の情景を想起させることを可能とする。記憶にその人が実際に体験しているか否かといったことは関係なさない場合もあるのだ。

 また記憶というものは不変のものではない。記憶はその都度、想起される場所や時によって再構成され違ってくる。
 記憶を想起するものはもちろん文化遺産にとどまらず、ただの街の風景であったり、音楽や味覚、また臭い等でも記憶は想起される。人間は五感の全てを用いて自分の身の回りにある体験を記憶しようとしているのだ。
 
 私は就職活動を初めて、さまざまな場所に足を運ぶようになった。就職活動は楽しい時もあるが、もちろんつらい時もある。そんな時、「前に友達とこの駅にきたなー。」「このビルは昔こんなことやったあの場所とめっちゃ近くてなんか思い出すからいやだなー。」とか昔を思い返しては懐かしみ、ちょっとした活力にしている自分がいる。
 その時想起している記憶、思い出は実際に昔体験したものとは違っている。記憶はその時の心境などにおいて変わってくるからだ。あくまでも記憶は再構成されるものであり、保存されるものではない。

 ちょっとした記憶でもその日を生きる活力になる。思い出はいつだってやさしい。1日1日、一瞬一瞬を大事に日々生きていきたい。

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